6月 042005
 

 5月2日からニューヨークの国連本部で開かれていた核拡散防止条約(NPT)再検討会議は27日夕(日本時間28日朝)、実質的な成果のある文書を取りまとめられないまま閉幕した。2000年の会議では、「核兵器廃絶への明確な約束」など13項目の核軍縮合意を盛り込んだ最終文書を採択しており、それと比べると核兵器廃絶から大きく後退した結果となり、私たちも、その場に代表団を送り、核兵器廃絶への道筋をたててほしいと働きかけていただけに、無念としか言いようがない。
 被爆60年に開催されたNPT再検討会議が、このような形で閉幕してしまったことに、強い憤りを覚えるとともに、心から悲しい思いでいっぱいである。人類は、「ヒロシマを考え」、あの原爆地獄から本当の教訓を学び、核兵器のない平和な地球社会の構築にいつ成功するのだろうかと暗澹たる思いを抱かざるをえない。広島・長崎で被爆した人々は、一刻も早い核兵器廃絶を求めて、一日千秋の想いで、朗報を待っていたはずだが、その想いを裏切られたことは本当に残念である。
本格的な検討は別の機会に譲るとして、問題点を記憶にとどめるために、簡単に整理しておきたい。5月23日、各委員会の最終文書草案の骨子は以下の通りである。

第1委員会【核軍縮】
・新型核の研究開発の断念を核保有国に要請
・核実験全面禁止条約(以下、CTBT)の早期発効に向けた努力を歓迎
・CTBT発効までの核実験中止(モラトリアム)継続を要請
・核軍縮推進に向け、軍縮会議に特別委の早期設置を約束

第2委員会【核不拡散】
・追加議定書の普遍化の重要性を認識
・インド、イスラエル、パキスタンの加盟促進
・「核の闇市場」に深い懸念を表明
・核拡散防止は、対話による解決を目指す

第3委員会【原子力平和利用】
・ウラン濃縮、核燃料再処理を断念した国に対する核燃料の供給保障を国際原子力機関(IAEA)で検討するよう要請

 第1委員会(核軍縮)では、CTBTの早期発効努力を歓迎する、新型核研究開発の放棄要請などの草案に米国が強く反発し、合意に至らなかった。NPT脱退問題では、脱退した国に対して原子力資材や機材の返還を義務づける案に、途上国が反発した。第3委員会(原子力の平和利用)は、95年の再検討会議で採択された声明で「平和目的の核施設への攻撃や威嚇は国際法上の懸念」と指摘していることなどを、イランが改めて確認するよう再三、強調したが、米国は結局、イランの意向に反対し続けた。日本の再処理が2005年中に始まることへの追及はない中での、ダブルスタンダードの問題性が浮かびあがっている。
 直接的には、エジプトなどの一部中東諸国がイスラエルの核問題の解決を優先したことが原因との見方があるが、核軍縮に向けた措置をめぐって強硬な反対姿勢を貫いた核保有国=米国にほとんどの責任があることは明白である。2001年9月11日のアメリカ東部でのできごとを契機としたアメリカ政府のかたくなな姿勢は、結果として力対力の悪循環を導くだけであることを悟るべきである。
これでNPT体制の根本的な見直しや核不拡散をめぐる新たな枠組み構築を求める声が強まりそうだとの見解もあるが、国家間の関係が変わらない中では、同じ問題を抱えている。問題は、組織のあり方ではなく、NGO,自治体などが、自国の政策を変えていける力関係を構築することが最も重要である。
 今後、米国はNPTの見直しよりも、独自の核不拡散対策を強化する可能性が高い。ブッシュ米政権はもともと、現行の国際法や取り決めでは核や大量破壊兵器の拡散防止の効果はないと見ていた。そのため03年、航空機や船舶などへの監視を強化し、積み荷を押収する大量破壊兵器の「拡散防止構想」(PSI)を提唱し、現在、米、英、日本など15カ国が運営主体となっている。今後、アメリカは、PSI強化など有志連合方式を一層重視していく可能性が高い。
 NPTは00年の再検討会議で、核兵器廃絶への「明確な約束」やCTBTの早期発効など核軍縮に向けた13項目を明記した最終文書を採択したが、その到達点は、死んだわけではない。むしろ、このような事態を迎えて、改めて、その価値が高まっていると言うべきである。
 そもそもNPTは核兵器の保有をアメリカなど5カ国にだけ認めたうえで、5カ国は核軍縮を進め、非核保有国は原子力の平和利用の権利を持つという「三つの取引」の均衡で成り立つ極めて危うい枠組みである。核保有国と非核保有国との対立は長年続いており、今回のことはその一コマであると見るしかない。
 ただ核兵器保有5カ国が、核軍縮の取り組みをまとめた共同声明が準備されていたと言われており、これは、44項目、10ページに及ぶ長文の文書だと報道されている。NPTの役割の再認識、核実験のモラトリアムなどに加えて、NPT脱退と核兵器保有を宣言した北朝鮮に対し、NPTや6カ国協議への早期復帰を促す内容を盛り込んでいたと言うが、この公開を求めたい。

 1945年8月、広島・長崎への無差別攻撃で始まった核文明は、今なおそのグロテスクな姿を保ったままである。特に米国は、CTBTへの批准を拒否し続け、使用可能な超小型の核兵器開発を公言し、NPTからの脱退さえちらつかせている。2005年NPT再検討会議は、現存の国際環境の中で、核軍縮をめぐる問題点を明らかにし、かつ核兵器廃絶のための歴史的な契機にする場として、機能しなかったとは言え、広島・長崎を初めとした世界中の市民が、あくまでも一刻も早い核兵器の廃絶を求めていることに、何の変化もない。そこで、改めて各国政府に以下の点の実現に向けて尽力されるよう要請する。

1. すべてのNPT締約国が、第6条の下で誓約している核軍縮につながるよう、核兵器国は保有核兵器の完全廃棄を達成するよう明確な約束を履行すること。

2. 各国はCTBTの早期発効を達成するために、遅滞なく、無条件に、批准すること。

3. CTBTが発効するまでの、核兵器の爆発実験またはその他のあらゆる核実験を停止すること。

4. 核軍縮、核実験と小型核兵器の研究の禁止、その他の軍備管理と削減措置に適用されるべき、不可逆性の原則を順守すること。また核軍備競争の逆行を助長するミサイル防衛(MD)計画を取りやめること。

5. 核兵器能力について、また、第6条にもとづく合意事項の履行について、核軍縮のさらなる前進を支えるための自発的な信頼醸成措置として、核兵器国が透明性を増大させること。

6.  一方的な発議にもとづいて、また、核軍備削減と軍縮過程の重要な一部分として、非戦略核兵器をさらに削減すること。

7. 核兵器国、および核兵器依存国は、自国の安全保障政策における核兵器の役割を撤廃すること。
8. 全ての核兵器保有国による核軍縮会議の早期開催について、検証制度の技術的会議を先行させ、非戦略核を優先させるなども含めて、実現に努力すること。

9. 全面かつ完全な軍縮が世界人民の究極的な理念であることを再認識し、戦力を放棄した日本の平和憲法を普遍化する積極的な努力を行うこと。

10 1996年7月8日の国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見を想起しつつ、NPT第6条義務の履行について定期報告をおこなうこと。

11. 第3者機関による、アフガニスタン、コソボ、イラクで使用された放射能兵器(劣化ウラン弾)の被害調査を十分に行い、その使用を禁止する方向で最大限の努力をすること。

 広島・長崎の被爆者は、もう待ちきれないという想いに駆られている。核保有国は核兵器廃絶に向けて、どのような道筋をつけるのかを明らかにしていただきたい。私たちは、被爆地・広島の市民・被爆者として、世界のNGO、そして自治体との連携を強め、その力で自国の核政策を変えていくとともに国際的な枠組みを早急に形成すべく全力を傾注する所存である。 

2005年6月1日

核兵器廃絶をめざすヒロシマの会
共同代表 岡本三夫・河合護郎・森瀧春子
〒730-0012広島市中区上八丁堀8-23林業ビル4F
広島県生活協同組合連合会気付
E-mail kenren.h@proof.ocn.ne.jp
ホームページ http://www.e-hanwa.org/

  投稿 @11:57 PM

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